しまっていた上着へ袖を通すと、片方のポケットだけが少し重い。手を入れると、小さく折った紙や使いかけのポケットティッシュが出てくることがあります。冬支度の途中に、去年の続きを見つけたような気分です。

忘れていたのは物より場面

紙を広げても、たいしたことは書かれていません。買い物のメモや店のレシートなのに、見覚えのある文字から、その上着を着て歩いていた日が浮かびます。

日付を確かめて記憶を正解にしなくてもかまいません。あのころはよくこの店へ寄っていた、と一つ思い出せれば十分です。スマートフォンの写真とは違い、探していなかったところから出てくるのがポケットの面白いところです。

同じ紙でも、昨日のズボンから出てきたときと、半年しまった服から出てきたときでは重さが違って感じられます。残っていた時間も一緒につまんでいるのかもしれません。

今年のものを入れる場所を空ける

懐かしくても、全部をまた戻すとポケットは去年のままです。残したい紙は机へ置き、使わないものを出して、裏地を軽く整えます。

片方ずつ手を入れて空なのを確かめると、上着が今年の道具へ戻ります。ここには鍵、もう片方には手袋。まだ寒さに慣れない手でも、いつもの場所なら探しやすそうです。

ポケットに残ったレシートのように、一枚だけ眺める時間を取ってもよいでしょう。整理のついでに思い出を全部たどる必要はありません。

袖を通すと今の体に戻る

去年は厚い服の上から着ていたのか、今日は少し大きく感じることがあります。鏡の前で襟を直すと、さっきまで記憶をたどっていた気持ちも、これから出る道へ向きます。

気温に合わせて中に着るものを選び、出した紙は置いていきます。空いたポケットへ今年の鍵を入れたら、玄関で袖口をもう一度整えて出かけましょう。